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2010/03/16

『Someday. Live in Japan 』のスタンダード


『Someday. 』の中に入っている曲は全てスタンダードです。

昨年のライブでのこと。
マグナス・ヨルトの来日が決まって、日本で何の曲を演奏するのか来日直前になっても実は全く未定の状態が続いていました。

日本人ドラマー池長一美とは初顔合わせでしたし、ミュージシャンを信頼し全て任せるつもりだったさすがの私も心配になって、「何を演奏するの?」と日本からメールを出してみました。マグナスは「大丈夫300曲のスタンダードが頭に入っているから」と言うのみ。

マグナス・ヨルトがスタンダードを演奏するとはなぜか信じられなかったのです。
デンマークのライブハウスで聴いたマグナスの演奏はすべてオリジナル。
それにデンマークの彼はあの風貌からして「絶対にスタンダードなんか演奏しないよな」という雰囲気バリバリでしたので。
そのマグナスの中に「スタンダード300曲が入っている」ということが何故か信じられませんでした。

来日してすぐにセットリストを書いたのはマグナス・ヨルト。

私が彼にした演奏のリクエストは「Someday My Prince Will Come」とオリジナル「Ballroom Steps」と何故か大好きなペーター・エルドのオリジナル「The Pattern Maker」のみ。
すべては彼に任せました。
一度だけの1時間あまりの池長一美とのリハーサル、それだけで即座に彼は演奏曲を自分の頭の中で考えたのでしょう。
次の日、ライブの1日目、セットリストは出来上がっていました。


4日間で彼らは40曲ほどのスタンダードとオリジナルを演奏。
もちろんその40曲、一つとして同じ曲はありません。同じMIlestonesでもCherokeeでも、偶然の産物、すべて違う成り行きのアレンジ。
3人のミュージシャンの音と能力の結晶です。

それ故に『Someday.』の収録曲を決める時は大変に悩みました。
全部入れてもいいくらいにどの曲も素晴らしい。
悩んだ結果、全曲スタンダードで行こうと決めました。
オリジナル曲も入れたかったのですが、今回は彼らのオリジナルのトリオのドラマー、一人でデンマークでお留守番中のスノーレに敬意を表して、オリジナル曲は何も入れませんでした。
一人でお留守番させてごめんねという私なりの配慮と言えば配慮。

でもですね。
あのマグナス・ヨルトがスタンダードを演奏したらこうなるのだということを少しでも多くの方にお知らせしたかったのです。

彼の本領発揮は多分オリジナルによってなされるのだとは思うのです。
彼のコンポーズには群をぬいて面白いものがあります。
彼の10歳年上のお兄さんも作曲家だそうです。
だから彼は自然に小さい時から自分もそうなるのだと思って育ったとか。


マグナス・ヨルトは、進化し続けるミュージシャンです。
他のジャズミュージシャンについては私はほとんど知りません。
だから全てを把握して言っている訳ではありません。
ですが、今回のライブからリリースに至るまでの経緯で、マグナス・ヨルトの年齢でこれほどの高い能力が即座に発揮できるのかと驚きました。
北欧の音楽教育がそうさせるのか。
それともそれがマグナス・ヨルトの持っている本質なのか。
どちらにしても。
彼の伸びて行く先をずっと見ていたい。
そう思わせるとても魅力的な26歳のミュージシャンであることは確かなのです。




右の写真
池長一美氏のスタジオで昨年6月
リハーサル中のマグナス・ヨルト