キラ・スコーフ インタビュー (インタビュアーは佐藤英輔氏です)
ー 著名なロック・シンガーが古いジャズ曲を歌うプロジェクトを持つ。それについてあなたのこれまでのファンはどういう感想を持ったのでしょう。
このアルバムには年齢や世代を超えて人を虜にする、時代を感じさせない魅力があります。確かに昔からの私のファンには私がやろうとしていることは大変な冒険に思えたかもしれません。でも、それは同時に新しいファンに出会えるということなのです。
ミュージシャンとして岐路に立ち道を選ぶ時、失うものもあれば得るものもあります。
ー あなたは10代頭のころから、ビリー・ホリデイを聞いていたそうですね。彼女にはどういう所感を持っていますか。
生まれた街のショッピングセンターで私は偶然に彼女の古いレコードをみつけたの。それはこの世のものとは思えない魅力で、それこそが伝説のシンガーでいる理由なのだと思う。髪につけた花飾り、彼女の名前、声、音楽。彼女の歌を聞いた瞬間に私は彼女の虜になっていました。その時からビリー・ホリデイは私にとってのサウンド・トラックなのです。
ー そんなあなたは、どうしてロック・シンガーの道にすすんだのでしょう。
10代初めの頃から私の中には二つのパラレルワールドがありました。
ビリー・ホリデイやマイルス・デイビスの世界。そして、レッド・ツェッペリン、ビートルズ、ストーンズ、アレサ・フランクリン、アル・グリーン、オーティス・レディングのような往年のソウル・シンガーたちの世界。その両方のエネルギーが私の中に存在していて、私の中にあったジャズ・シンガーとしての自分が出てくるタイミングをただ待っていただけ。それだけのことです。
ー あなたはかつてロンドンやLAに住んだこともあったようですが、その経験はあなたの音楽活動に跳ね返っていたりもしますか?
17歳でデンマークからロンドンへ向かい、ロンドンの地下鉄の駅で出会ったアメリカ人ミュージシャンと共にアメリカへ渡り、バンドと一緒に旅をしながら演奏をするというまるでジプシーのような暮らしをしていたの。この一年の生活がアーティストとしての、そしてソングライターとしての私を作ってくれたのです。
旅が私の音楽の学校そのものだったわ。
ー とても成熟したサウンドがついています。ベーシストは旦那さんだそうですが、アレンジもしてるHEINE HANSENをはじめ、どんな人たちがレコーディングには参加しているのでしょう。
夫のニコライ・ムンク=ハンセンとは音楽を通じて出会いました。人生において、関係において、音楽は二人の間で大きなパートを占めています。曲作りもよく一緒にします。ニコライはジャズもロックもやります。大変メロディアスなアプローチでベースを奏でることのできる素晴らしいミュージシャンです。
ハイネ・ハンセンはこれまで共演してきたピアニストの中でも最高のピアニスト、私が歌いやすいように演奏してくれます。
マッズ・ハイネとヤコブ・ディネセンはデンマークではトップクラスのホーンプレイヤー。私は彼らのメランコリックなサウンドと美しいアレンジが大好きです。
RJ.ミラーはアメリカ人ドラマーで、アメリカのサックスプレイヤーが紹介してくれました。このアルバムにはぴったりのドラマーで私たちのチームに入ってくれて皆とても喜んでいるの。
ー 選曲はどんな観点のもとになされているのでしょうか?
すべて私の好きな曲です。十代の頃から好きで聴いてきた曲、自然に私の中でわき上がってきた曲たちです。
ー ビリー・ホリデイという偉大なアイコンを通して自分を出すためにいろいろなことを考えたと思います。
幸せなことに、私はビリーと10代で出会ってとても個人的な関係を築いてきました。そう思っている人は世界中にいると思いますが、そんな当たり前のことを忘れるくらいに特別なものがビリーと私の間にはあるんです。プレッシャーも感じさせないくらいのもの。すでに完璧な作品として存在するものを私がカヴァーすることに何の意味があるのだろうかと考えました。でも、考えてみたらすべてのスタンダードナンバーって、多くの偉大なシンガーが何度もカヴァーしてきていて、それがまさしくジャズの世界なんです。私がやろうとしていることはただジャズの伝統をなぞっているだけなのだと気づきました。そういった想いも迷いもすべてが私のビリー・ホリデイへのアプローチでした。
ー 事実、アルバムはただのカヴァー集ではなく、一歩前に進んだキラ・スコーフならではのビリー・ホリデイ曲になっています。
アルバムを作るにあたりどんなことに留意したのでしょう。
今の自分に正直でいたいということです。これまでに書かれてきた歌の中でも最高の歌を歌いたいという夢の実現です。そして名曲を肩を並べられるような曲を自分でも作るということ。すべて成功していると信じています。
ー 今後はどういう活動をしていく予定でしょうか。
ちょうど今、このアルバムのデンマークでのツアーを終えたばかりで、この後はまたいくつかコンサートが控えています。同時に作曲もしているところです。
このアルバムのリリースで近い将来日本を訪れる日が来ることを願っています。
私、日本食大好きなんです!